【プロが解説】エコジョーズで元は取れる？10年間の総費用シミュレーションで後悔しない選び方

エコジョーズに交換して「元が取れるか？」――この問いへの答えは、実はご家庭ごとに全く異なります。多くの方がガス代の節約額に注目しますが、本当に大切なのは、設置費用から10年後のメンテナンス費まで含めた『総額』で判断すること。この視点がないと、数年後にかえって損をしてしまう可能性すらあるのです。この記事では、元メーカー開発担当の私が、誰にでも分かるように「後悔しない給湯器選びの全知識」をお伝えします。

• この記事でわかること
  • 月々のガス代だけでなく10年間の総費用で元が取れるかが分かる
  • あなたの家庭（家族構成・ガス種）に合わせた具体的な損益分岐点
  • 多くの人が見落とす「エコジョーズ選びの注意点」と失敗しないコツ

まず結論：エコジョーズで元が取れる家庭、損する家庭

👉 このパートをまとめると！
LPガスを利用する大家族は数年で元が取れる可能性大。一方、都市ガスでガス使用量の少ない少人数世帯は、元が取れないリスクがあります。

給湯器の交換は大きな買い物ですから、単刀直入に結論からお伝えします。あなたがエコジョーズに交換して得をするか損をするかは、現在のガス契約と家族構成でほぼ決まります。

【2〜3年で元が取れる】LPガスを利用するファミリー世帯

ご家庭でLPガス（プロパンガス）をお使いの場合、エコジョーズへの交換は非常に大きなメリットをもたらす可能性が高いです。LPガスは都市ガスに比べて料金単価が高いため、熱効率が改善されるエコジョーズの恩恵を最大限に受けられます。特に、お湯の使用量が多い4人以上のご家庭では、早ければ2年ほどで初期費用を回収できるケースも珍しくありません。

【10年以上かかる/損する可能性も】都市ガスを利用する1〜2人暮らしの世帯

一方で、都市ガスをお使いで、かつ1人暮らしやご夫婦2人だけといった世帯では、慎重な判断が必要です。もともとのガス料金が比較的安価な上に、お湯の使用量も少ないため、エコジョーズに交換しても年間のガス代削減額は数千円に留まることがあります。その場合、高価な初期費用を10年という給湯器の寿命内に回収できない可能性があります。^[1]

この関係性をマップでイメージすると分かりやすいでしょう。例えば、LPガスで4人家族のようなガス使用量が多いご家庭はマップの右上に位置し、回収期間は2〜3年と非常に短い傾向にあります。一方、都市ガスで1人暮らしのようなガス使用量が少ないご家庭はマップの左下に位置し、回収期間は10年以上かかるか、元が取れない可能性を示します。

【最重要】元が取れるかの判断は「総所有コスト（TCO）」で見ないと損をする

👉 このパートをまとめると！
初期費用だけでなく10年間の燃料費とメンテナンス費を合計した「総所有コスト（TCO）」で比較しないと、将来的に損をする可能性があります。

「業者に勧められたけど、本当に得なの？」というあなたの不安、よく分かります。多くの方がここで失敗するのは、初期費用と月々のガス代という目先の数字だけで判断してしまうからです。後悔しないためには「総所有コスト（TCO）」という考え方が絶対に必要です。

そもそも「総所有コスト（TCO）」とは？車の購入に例えて解説

難しく聞こえるかもしれませんが、TCOは非常にシンプルです。例えば、自動車を購入する際、車両本体の価格だけで決めませんよね。ガソリン代や税金、将来の車検代まで含めた総額で「どちらの車が本当にお得か」を考えるはずです。

給湯器選びも全く同じです。購入時に支払う金額だけでなく、寿命である約10年間でかかる全ての費用を合計した金額、それが総所有コスト（TCO）です。

【見落とし厳禁】TCOを構成する3つの費用

TCOは、大きく分けて以下の3つの費用で構成されます。

1. 初期費用： 給湯器本体の価格＋標準工事費＋ドレン排水工事費
2. ランニングコスト： 10年間に支払うガス代の合計
3. メンテナンス費用： 約10年で交換が必須になる「中和器」の交換費用

特に、エコジョーズ特有の「ドレン排水工事費」と、将来必ず発生する「中和器」の交換費用は、見積もり書に明記されず見落としがちなポイントです。

TCOの内訳を円グラフでイメージすると、大半を占めるのが10年間のガス代です。初期費用は一部であり、見落としがちなメンテナンス費用も確実に含まれることを理解するのが重要です。

【我が家の場合は？】4人家族・LPガス家庭の10年間のTCOシミュレーション

👉 このパートをまとめると！
4人家族・LPガスのモデルケースでは、従来型給湯器とのTCOの差額が10年間で10万円以上となり、エコジョーズが圧倒的に有利です。

では、あなたの状況に近いモデルケースで、実際にTCOを比較してみましょう。ここでは、ペルソナである佐藤さんと同じ「4人家族・LPガス・戸建て」という条件でシミュレーションします。

シミュレーションの前提条件

• 家族構成: 4人（夫婦＋子供2人）
• ガス種: LPガス
• 初期投資プレミアム: 従来型給湯器より35,000円高いと仮定（ドレン工事費込み）
• 年間ガス代削減額: 18,000円と仮定
• メンテナンス費用: 10年目に中和器交換費用として20,000円かかると仮定

【比較表】従来型 vs エコジョーズ 10年間の総所有コスト

結論：このケースの損益分岐点は「約2年」。10年間で約12.5万円お得に。

シミュレーションの結果、初期費用は35,000円高いにもかかわらず、わずか2年弱でその差額を回収できる計算になります。

さらに、10年後の中和器交換費用を支払ったとしても、10年間のトータルコストでは125,000円もエコジョーズの方がお得という結果になりました。LPガスで家族の人数が多いご家庭にとって、エコジョーズは非常に合理的な投資と言えるでしょう。

「エコジョーズはやめとけ」と言われる理由｜後悔しないための注意点

👉 このパートをまとめると！
ガス使用量が少ない、設置場所に制限がある、などの場合はエコジョーズが不向きなことがあります。導入前に必ず確認すべき注意点を解説します。

エコジョーズは多くの家庭でメリットがありますが、万能ではありません。「エコジョーズはやめとけ」という声があるのも事実です。あなたが後悔しないために、導入前に確認すべき3つの注意点をお伝えします。

そもそもお湯をあまり使わない家庭

エコジョーズの最大のメリットは、お湯を沸かす際のガス消費量を削減することです。そのため、シャワーを短時間で済ませたり、湯船にお湯を張る習慣がなかったりするご家庭では、節約できるガス代が少なく、初期費用を回収できない可能性があります。

マンションなど、ドレン排水工事が難しい設置場所

エコジョーズは、燃焼時に発生する結露水（ドレン）を排出するための排水管工事が必須です。戸建ての場合は比較的容易ですが、マンションのパイプシャフト内など、近くに排水経路がない場合は、工事が大規模になり費用が大幅に増加することがあります。

給湯以外のガス利用（ガスコンロ等）が多い家庭

ガス代請求額のすべてが安くなるわけではない点も注意が必要です。エコジョーズが効率化するのは、あくまで「給湯」に使うガスだけです。ガスコンロでの調理やガスファンヒーターなど、給湯以外のガス使用量には影響を与えません。

【専門家の視点】なぜ今、エコジョーズが「標準」になっているのか？

👉 このパートをまとめると！
国が定める省エネ基準（トップランナー制度）により、メーカーが高効率なエコジョーズを中心に製造・販売せざるを得ない状況になっているためです。

交換業者から「今どきはエコジョーズが普通ですよ」と言われ、疑問に思ったかもしれませんね。その背景には、個々の家庭の損得勘定だけでなく、国全体のエネルギー政策が大きく関わっています。

国の省エネ基準「トップランナー制度」とは？

経済産業省によれば、現在、家電製品などには「トップランナー制度」という省エネ基準が設けられています。これは、市場で最もエネルギー効率の良い製品（トップランナー）の性能を基準とし、メーカー全体にその水準を達成するよう求める制度です。^[3]

給湯器もこの対象であり、メーカーは基準をクリアするために、必然的に熱効率の高いエコジョーズのような製品を開発・販売する必要があるのです。これは、いわばクラス全員で一番足の速い子を目標に、クラス全体の平均タイムを上げよう、という取り組みに似ています。

もう一つの視点：災害時の強み・弱み

このように、エコジョーズの普及は国のエネルギー政策が背景にあります。そして、長期的な視点で設備を選ぶ上では、経済性や国の制度だけでなく、もう一つ考えておきたいのが災害時のレジリエンス（強靭性）です。大規模な地震などが発生した場合、ライフラインの復旧は電気が最も早く、都市ガスは広範囲の安全確認が必要なため最も時間がかかる傾向があります。^[4]

この点では、ガスに依存するエコジョーズは、オール電化のエコキュートに比べて復旧が遅れるリスクを考慮しておく必要があります。

よくある質問（FAQ）

👉 このパートをまとめると！
エコジョーズに関する細かな疑問に、Q&A形式で簡潔にお答えします。

Q. エコジョーズの寿命は、従来型と比べて短いですか？

A. いいえ、寿命は従来型の給湯器と変わらず、一般的に10年〜15年が目安です。ただし、エコジョーズは内部構造が複雑なため、定期的な点検を心がけることで、より長く安心して使用できます。

Q. 中和器の交換は、必ず10年で必要になりますか？

A. 使用頻度や水質によって前後しますが、約10年が交換の目安とされています。給湯器本体にエラーコードが表示されるようになったら交換のサインです。費用は15,000円〜30,000円程度が相場です。

Q. メーカー（リンナイ、ノーリツなど）によって性能に違いはありますか？

A. 熱効率などの基本性能に大きな差はありません。違いは、お風呂のお湯を除菌する機能や、微細な泡を出す機能など、各社独自の付加価値機能にあります。ご自身のライフスタイルに合った機能で選ぶのが良いでしょう。

まとめ：後悔しない給湯器選びは「TCOでの比較」と「相見積もり」が鍵

👉 このパートをまとめると！
あなたの家庭のTCOを計算し、複数の業者から見積もりを取ることが、賢い給湯器選びの最短ルートです。

今回は、エコジョーズで元が取れるかについて、長期的な視点から解説しました。最後に、後悔しないための最も重要なポイントを振り返ります。

• この記事のポイント
  • 元が取れるかは「総所有コスト（TCO）」で判断する
  • LPガスを利用する大家族なら高確率で元が取れる
  • 10年後に中和器の交換費用が発生することを見込んでおく

給湯器の交換は、決して安い買い物ではありません。だからこそ、業者任せにせず、ご自身でしっかりと損得を判断することが大切です。

• あなたの次のステップ：まずは複数社から見積もりを取ろう

  この記事を読んで、ご自身の家庭ではエコジョーズが有利だと感じたら、次のステップは複数の業者から相見積もりを取ることです。その際は、必ず初期費用の総額だけでなく、この記事で解説した「中和器の交換費用の目安」も確認し、長期的な視点で最も信頼できるパートナーを選んでください。

  💡 業者選びのポイント

  給湯器交換は高額な買い物のため、業者選びは慎重に行う必要があります。悪質業者を避け、適正価格で安心できる業者を選ぶ方法について詳しくは、給湯器業者の選び方｜後悔しない業者選択のポイントをご覧ください。

  あなたの給湯器選びが成功することを心から願っています。

参考文献

1. 一人暮らし・二人暮らしにエコジョーズは必要か計算してみた – 給湯器パートナーズ
2. エコジョーズとは？価格や特徴、交換について | 給湯器交換の水猿
3. ガス温水機器の新たな省エネ基準に関する報告書を取りまとめました – 経済産業省
4. 南海トラフ地震対策はどうなっている？｜ライフラインの復旧と住宅の備え | トキワシステム